『ジェットコースターに乗る前にはおむつを穿く』(3)
🕑 Added 2024-05-24 11:45:12 +0000 UTC
【後半部】今年のジェットコースター
五章 一年振りの再挑戦の前に(22-26)
22 優柔不断の芽衣子
芽衣子は遠い目をして、恥ずかしくも懐かしい一昨年の思い出を回顧していた。
「どうするの?」
とママは訊いた。
「……」
「ねえ、芽衣子。どうするのよ?」
とママはさらに大き目の声を出して、芽衣子の肩を揺すった。芽衣子はようやく、ハッと我に返ったように顔を上げた。ママと彩香が自分の顔をジッと見つめていた。
「えっ……」
「『えっ』じゃないでしょ、芽衣子。乗るの?乗らないの?」
「ああ、そのこと。えーと……」
過去の追想に浸っていた芽衣子は、いきなり現実に引き戻されて、ジェットコースターに乗るか乗らないかの決断を迫られ、ホトホト困惑してしまった。
芽衣子は、勇ましく「乗る」と言いたい所だったが、実際にはそう簡単にはいかなかった。さすがに今の年齢になって、ジェットコースターごときで、おしっこをちびるとは思えなかったが、
(もしも、万が一のことがあったら……)
と心配してしまって、踏ん切りがつかなかった。前回のおもらしは二年前の出来事だが、その時の惨めさが、昨日のことのようにありありと思い出されて、もう二度とあんな目には遭いたくなかった。
「芽衣子、あれを心配しているのね?」
ママも同じことを考えているらしく、「あれ」を変に強調して言った。
「そういえば、お姉ちゃん、昔、そんなことがあったよね。ビシャビシャになることが。うふふ」
彩香までそんなことを言った。直接的ではないにしろ、遠回しに言って、芽衣子の顔を見てニヤニヤした。
おもらしは二年前のことなので、彩香も今より大分幼かった。そのため、芽衣子は、(彩香はそんな昔のことなど、もうとっくに忘れているのではないか)と、期待を込めて思っていたが、姉の失敗ということなので、彩香はしっかりと記憶に残していたらしかった。
(性格の悪い奴だな)
芽衣子は彩香をにらんでやった。
ただ、今、こんな所で姉妹でケンカをしてもしょうがないというぐらいの分別は、ちゃんと芽衣子にはついた。
(どうしよう……。決めなきゃな)
ジェットコースターに乗るのを断るのは無難だが、彩香にこわがりの姉だと思われるだろう。それは嫌だった。しかし、かと言って、乗って、おもらしてしまうのはもっと嫌だった。
芽衣子は腕組みにて、眉間にしわを寄せて、「うーん」とうめいて真剣に悩んだが、思考は堂々巡りして、いつまで経っても、決められそうになかった。
23 ママの提案
いつまで経っても、どうするか決められない芽衣子を見て、ママは「しょうがない子ね」というように苦笑をもらすと、
「ママに一つ、考えがあるんだけどね」
と言った 芽衣子はその言葉を聞いて、救われように表情を明るくした。
「考えって?」
と勢い込んで訊いた。しかし、ママはすぐには答えず、
「じゃあ、こちらにいらっしゃい」
と、芽衣子を手招きして、スタスタと歩き出した。
(どこへ行くんだろう)
芽衣子だけでなく、彩香も首をひねった。ともかく、二人は一緒にママの後ろをついて行った。
ママはジェットコースターの乗り場に近付いた。しかし、そこへ通じる階段は行き過ぎてしまい、さらに曲がり角の向こうに行くと、サービスセンターという表記の掲げられている建物があった。
「ママ、ここは?」
「サービスセンターよ」
「うん、そう書いてあるね。で、何をするの」
「まあ、黙ってついてきなさい」
ママはガラス扉を開いて中へ入った。
その内部にはカウンターがあって、向こう側には二人の女性係員が座っていた。一人は普通の年配の女性だったが、もう一人は若くて、とてもきれいな女性だった。彼女たちは芽衣子たちを笑顔で迎えた。
ママはその係員に何かを質問して、やがて三人で談笑し始めた。
(こんな場所に何の用があるんだろう……)
芽衣子は聞き耳を立てたが、会話の内容までは理解できなかった。ただ、何かを使うとか使わないという話をしているようだった。
「何をしゃべっているんだろうね」
「さあ」
と芽衣子と彩香は顔を見合わせた。二人ともその場で佇んで、大人たちの会話に割って入ることはしなかった。
やがてママは振り返って、芽衣子に向かって、
「やっぱり、いけるみたい。良かった」
と一人納得したように言った。しかし、芽衣子からすれば、何がいけて、どう良かったのか、相変わらず意味不明だった。
「ねえ、ママ、一体何をしようっていうの。教えてよ。気になるじゃない」
芽衣子は少し声を荒げてしまった。しかし、ママは、
「しー。こういう場所では静かにするのよ。もう少しだけ、待ちなさい。そのうち分かるから」
と宥めた。
芽衣子は、「ねえ、ママ」とさらに食い下がろうとしたが、その時、若い方の女性係員が席を立って、カウンターをグルリと迂回して、こちらへ近寄ってきた。そして、どういうわけか、係員はママにではなく、彩香に話し掛けた。さらに、彩香に向かって、
「えーと、芽衣子ちゃんだったわね」
などと言ったので、それを見ていた芽衣子は、(どういうことだ?)と頭が混乱した。
「いや、私は違います。あっちのお姉ちゃんが芽衣子です」
と彩香は戸惑いつつも、芽衣子を指差して、係員に教えた。
「芽衣子はこちらの子ですのよ」
とママも慌てた様子で、芽衣子の背中を押して、係員に突き出すように、前へ一歩進ませた。
「あら、ごめんなさい。間違えちゃったわ。失礼しました」
係員はそう言って、改めて、芽衣子の正面に立って、「ふふ、あなたが芽衣子ちゃんね?」と優しく微笑みかけた。
芽衣子はきれいな女性に近距離で見つめられて、ドギマギしたが、
「はい」
と返事をした。しかし、そう答えつつも、今の状況がどうにも理解できず、訝し気な顔をしていた。
ただ、この女性係員は、とても気立ての良さそうな笑顔を浮かべていたので、芽衣子はそれを見て、
(ここで、これから何をされるのかは知らないけど、そうひどい扱いを受けることはなさそうだな……)
と幾分かは安心することができた。
24 サービスセンターの奥で
係員は芽衣子の手を握って、
「じゃあ、行きましょうか」
と言って、二人きりでどこかへ連れて行こうとした。芽衣子は驚いて、
「マ、ママ。どういうこと?」
と思わず助けを求めるように叫んだ。しかし、ママは、
「その係員さんの言うことには、ちゃんと従うのよ」
と言って、笑顔で手を振っていた。
結局、芽衣子は、さっぱり訳が分からない状態で、建物の内部の通路を歩かされた。
周囲を不安気にキョロキョロしていると、係員に、
「ここよ。入って」
と言われて、ある一室へ導かれた。芽衣子は言われるがままに、その部屋の扉をくぐって、中に足を踏み入れた。
そこは殺風景な廊下とはうって変わって、全体的に内装の派手な部屋だった。壁には汽車やお花畑のクレヨン風の飾り模様があって、床の一画はクッション張りで、棚にはお人形とかロボットのオモチャが並んでいた。低いテーブルも置いてあったが、色も形もどうやら子供向けのものらしかった。芽衣子はふと、昔通っていた幼稚園の教室を連想した。
(サービスセンターの中にこんな場所があったのか。でも、この部屋、何だろう……)
係員は、その芽衣子の驚きを読み取ったかように、
「この部屋はね、迷子の子供を預かったりする場所なのよ」
と説明した。
「はあ、そうですか……」
芽衣子は、なるほどと理解したが、なぜ自分がここに連れ込まれたのかは、依然として謎のままだった。
「じゃあ、その辺にでも座ってて」
係員は芽衣子にそう言うと、部屋の隅に積み重ねてあるプラスチック収納ケースを開けて、その中をゴソゴソと漁り始めた。
芽衣子はボンヤリと立っていたが、係員にもう一度、「座ってていいよ」と声をかけられたので、「はあ」と言って、とりあえず、その場のじゅうたんの上に座って膝を崩した。
「私ね、さっき、芽衣子ちゃんを妹さんと取り違えちゃったよね。ちょっと、勘違いしててね」
係員は収納ケースに顔を突っ込むようにして、何かを探しながら、背中を向けたまま、芽衣子にしゃべりかけた。
「ええ、そうでしたね。それはいいんですけど、ここで一体、私は何をすればいいんですか?」
「芽衣子ちゃんは何もしなくていいのよ。うふふ」
「それは、どういう……」
芽衣子は訊こうとしたが、その問い掛けを遮るように、係員はこちらへクルリと振り向いて、
「ほら、これ」
と言って、何かを収納ケースから取り出して、高く掲げて見せた。係員の持っている物は、一抱えもある大きさのビニールのパッケージだった。
(何だろう、あれは……)
「これを芽衣子ちゃんに使うんだよ」
「私にですか」
「そう。穿いてもらうわよ」
「穿く……、ですか」
「あら、これを見ても、何か分からないのかしら。じゃあ、近くで見せてあげるね。うふふ」
係員は愉快そうに笑いながら、そのパッケージを抱えたまま、芽衣子のそばまで来て、自分もしゃがんで、「はい、どうぞ」というように差し出した。芽衣子は両手でそれを無言で受け取った。
そのパッケージは嵩高い割には軽くて、しかも、フワフワと柔らかい手応えだった。すでに上端の封は少し破られていて、パッケージは全体的にクシャクシャだったが、手の平で撫でつけると、その表側に描かれているイラストは、ニッコリと笑っている女の子だった。
(これって何だっけ?こういうもの、絶対どこかで見た記憶はある。でも思い出せない……)
芽衣子はしきりに首をひねって、その正体を見極めようとした。
「まだ分からない?じゃあ、裏を見てごらん。書いてあるから」
係員は諭すように言った。
芽衣子は、そのパッケージをひっくり返して、裏面を見た。そこには図柄や文字がゴチャゴチャと印字されていたが、不意に、おむつという三文字が目に飛び込んできた。
(おむつ……?)
最初は目の錯覚かと思った。しかし、皺だらけの外装をちゃんと広げて、もっとよく見てみると、おむつの図柄や説明文がしっかりと描いてあった。また、おむつを穿いてはしゃいでいる女の子の写真も載っていた。
25 係員の主張
芽衣子は、なぜ自分がおむつのパッケージなんて物を持たされているのか、訳が分からず、説明を求めるかのように、係員を見上げた。しかし、係員は相変わらず、ニコニコと芽衣子を見つめているだけだった。芽衣子は言い淀んだが、思い切って口を開いて、
「あの、これは……」
と訊くともなく訊いた。
「うふふ。何だど思う?」
と係員はこれまでと同じ優しい調子で、訊き返した。
「えーと、うーんと、……おむつ」
「そう、おむつだよ。正解」
「でも、なんで……」
「なんでかって?それはね、芽衣子ちゃんが穿くからだよ」
「私が!?」
「そうだよ」
「……」
と芽衣子は腑に落ちないというに、首を傾げた。
「一から全部説明しなきゃ駄目かな?じゃあ、まず、単刀直入に訊くけど、芽衣子ちゃんは、ジェットコースターに乗ったら、おもらししてパンツを濡らしちゃうんだよね?」
「えっ、いや、それは……」
「あれっ、違うのかな。でも、芽衣子ちゃんのママはそう言ってたけどね。うふふ」
「ううっ」
芽衣子は、いきなり自分の過去の恥ずかしい失敗を指摘されて、恥ずかしさにうつむいてしまった。(なんでそんなことを見ず知らずの人に教えるのよ)とママをちょっと憎らしく思った。
「そんなことぐらいで、恥ずかしがらなくてもいいじゃない。芽衣子ちゃんは、照れ屋さんなのね」
と係員は芽衣子のあごの下に手をやって、顔を上げさせた。さらに、その柔らい頬をツンツンと突いて、悪戯っぽく笑った。その笑顔は人の心に染み通るようで、上がり症気味の芽衣子は、それだけで顔を赤くさせた。
「もう一度訊くけど、ジェットコースターに乗って、おもらししたんだよね?」
と係員は念を押した。
「昔、一度だけ……」
芽衣子は、ここまで言われれば、もう嘘をつく気にもならず、か細い声で本当のことを告白した。
「じゃあ、今回はどうかな。またしちゃうかな」
「しない……と思います」
「本当に?でも、するかも知れないよ。したら、大変だよね」
と係員は詰め寄ってきた。
芽衣子は「しない」と言い切りたい所だったが、残念ながら、自分でもそこまで断定する程の確信はなく、
「……」
と黙り込んでしまった。それを見て、係員は「ふっ」と笑うと、
「じゃあ、今度はそうならないように、おむつを穿かなきゃね」
と言って、話は決まったね、というような顔をした。
26 パッケージに注目
芽衣子は今の状況がまだ信じられなかった。呆然として、もはや言葉も出なかった。
「私がおむつを穿くの……?本当に……?」
と誰に言うでもなく、独り言のようにつぶやいた。
係員からの説明を聞いて、その事情自体は把握できた。ママの親切なのか意地悪なのか、その点はちょっと判断しかねたが、ともかく、ジェットコースターに乗って、おしっこをチビっても、服が濡れて悲惨なことにならないように、こういう配慮をしてくれたということらしかった。
(でも、そんな計画があったのなら、あらかじめ言って欲しかったな。いきなりこんなことされたら、ビックリするじゃない……)
芽衣子はママに少しばかり憤りを覚えた。もちろん、あらかじめ言われていたら、断っていたはずだが。
ただ、芽衣子自身も、その処置を全く理解できないというわけではなかったし、むしろ、理にかなっているとさえ思った。しかし、頭では分かっていても、気持ちはついて行かなかった。おむつのパッケージを手にしたまま、身じろぎもせず固まってしまった。
芽衣子は目線だけを動かして、パッケージの文面を読むともなしに読んだ。そこには、「やさしい肌ざわり」とか、「ぐーんと伸びる」とか、「すっきり穿ける」など、聞こえの良い文句が並んでいた。また、おむつの写真もあった。その前部分にはウサギのイラストがあって、全体的に星柄があしらっているというデザインだった。
おむつというと赤ちゃんの物なので、よほど幼稚な絵柄を想像していたのに、実物は地味だったので、意外な気がした。もし同じ柄のパンツがあれば、芽衣子は何の抵抗もなく穿いたはずだった。
サイズの表記は「100~130cm」と印字されていた。130cmという数字は芽衣子の身長よりも一回り小さいので、自分には穿けないのではないかと心配した。しかし、その直後、
(いや、私、まだ穿くと決めたわけじゃなかった……)
と芽衣子は自分の早とちりに、心の中で苦笑した。また、さらに、
(これぐらいの身長って小学生だよな。とすると、このおむつの本来の用途は、赤ちゃん用というよりは、おねしょをする子供のためなのかな?)
などと思いを巡らせた。
芽衣子が一心不乱におむつのパッケージをジロジロと見つめていたので、その様子から、係員は、
(この子、おむつに興味があるんだわ)
というように解釈したようだった。
六章 親切な係員の女性(27-32)
27 係員の解説と告白
「芽衣子ちゃん。おむつをずいぶんと物珍し気に見てるのね」
「あ、はい。だって、家では穿かないものですから」
「そりゃ、そうでしょ。もうおねしょも卒業してるんでしょ?」
「あ、はい。そうでした。はは……」
芽衣子は、舞い上がっていたせいで、変なことを口走ってしまったと、我ながら後悔した。
ただ、係員は、芽衣子の態度がそう拒絶的ではないのを見て安心したようで、さらに事情をじっくりと説明をし始めた。
「ここは迷子の子供を預かるための部屋だって、私、さっき言ったよね」
「ええ、それは聞きました」
「迷子になるような小さい子供って、色々とお世話が必要でしょ」
「はあ」
「まだおむつ穿いている子には、おむつを替えてあげなきゃいけないし、それに、おもらしして、親御さんに連れて来られる子もいるから、服とか下着は、男の子用も女の子用も、あの中に一式揃えてあるのよ」
「そ、そうですか」
「後、絶叫マシンに乗って、おもらししちゃう子もいるわね。うふふ」
と係員は芽衣子の顔を見ながら言った。
芽衣子は自分のことを責められているようで、気まずくなったが、その話には興味をそそられて、
「そういうのって、本当にあるんですか?話にはよく聞きますけど……」
と訊いた。
「そんな子はたくさんいるよ。結構大きな子でもね。特に、ここのジェットコースターは過激みたいだから、パンツとかおむつが用意されてるのよ。せっかくバズニーランドに来てくれるお客さんには、それぐらいのサービスは必要でしょ?」
芽衣子はその話を聞いて、
(大きな子って何才なんだろう。私より年上だろうか?)
と、その点が知りたくなった。もし自分が最年長だったらどうしようと心配だったが、思い切って、
「あの、このおむつって、そういう大きな子供のためのものなんですか?例えば、私ぐらいの年齢の……」
と訊いた。
「そうね、もちろん、小さい子が多いけど、中には大きな子もいるよ。あなたよりも年上の子におむつを穿かせたこともあるよ。その子、中学生だって言ってたかな」
と係員は、そのような特殊な内部事情を、さも当たり前だというように、サラリと教えてくれた。
「へぇー、中学生でもか……」
と芽衣子は声に出して感心した。しかし、頭の片隅で、(いや、でも、さすがにそんなことってあるのかな。係員さんは作り話を言っているのでは……)と勘ぐってしまった。ただ、もしそれが作り話だとしても、芽衣子を安心させるための嘘だろうから、ことさらには追及はせず、信じた振りをしておいた。
「実はね、私、大きな子におむつを穿かせるのって、とっても好きなの」
「それは一体どうして……」
「だって、大きい子は大人しく穿いてくれるでしょ。小さい子みたいに、駄々をこねたりしないから」
「楽ってことですか」
「それもあるけど、大きい子がおむつを穿かされる時って、本当はすごく恥ずかしんだろうけど、それを我慢している様子を見ると、いじらしくなっちゃって、可愛いなぁって思うの。もちろん、小さい子は小さい子で可愛いんだけどね……。うふふ、こんな風に思うのって、私、変かな?」
「……」
芽衣子は、係員からいきなりそんな告白をされても、自分も当事者だけに、どういう返事をしていいのか分からず、困ってしまった。ただ、そのせりふには、「あなたも大きい子なんだから、大人しくおむつを穿かされなさい」という寓意が込められていることぐらいは芽衣子にも十分理解できた。
28 実物のおむつを見て
「まあ、説明としてはそんな感じかな。他に何か聞きたいこととかある?」
「いえ、別に……」
サービスセンターの内部事情は興味深かったが、部屋の外ではママと彩香が待っているはずなので、あまり長話もできなかった。
二人はしばらく無言で見つめ合うと、係員は、
「じゃあ」
と開始の合図のように言った。芽衣子は、
(いよいよ、おむつを穿くのか……)
と思って、生唾をゴクリと飲み込んだ。しかし、この期に及んでも、その非日常的な事態に現実感を持てなかった。
係員の方は、そんな芽衣子のためらいにはお構いなしに、グイッと身を乗り出してきて、
「じゃあ、それを貸してね」
と言って、芽衣子の手からおむつのパッケージを取り上げた。そして、破ってある開け口に手を突っ込んで、中から一枚のおむつを取り出して、「はい、これだよ」と差し出した。
(おお、これがおむつの実物か……)
芽衣子はもっとよく見ようと思って、顔を近付けた。それは思っていたのよりも大きそうで、安心したというのも変な表現だが、穿けないかも知れないという懸念は払拭できた。
「可愛いでしょ」
「はい」
白地にウサギのイラストがプリントされていて、見かけは確かに可愛かった。
おむつは小さく折りたたまれていたが、係員はそれを広げた。その瞬間、芽衣子は、
(あれっ)
と思った。おむつが不自然な程に長かったのだ。想像の倍ぐらいはあった。しかし、その直後、
(あっ、そういうことか)
と、芽衣子はすぐに自分の勘違いを自分で修正した。
テレビのコマーシャルなどで刷り込まれていたためか、おむつというとパンツのような形状のものだとばかり思い込んでいた。しかし、目の前のおむつはテープで留める方式だったことに、今になって初めて気付いた。それはいかにも赤ちゃん用品という印象が強く、途端に急に幼稚なものに見えてきた。
(パンツタイプのおむつなら、パンツの一種だって言い張ることもできるけど、テープタイプのおむつなんて穿かされたら、それは正真正銘のおむつなんだから、もうそんな言い逃れはできないな……。それに、ああいうおむつって、どうやって穿くんだ?穿くというか、当てるっていった方が正確か……。私にできるのだろうか)
と芽衣子はまた改めて逡巡と懸念を覚えて、表情を曇らせた。
29 まずは仰向けに
「じゃあ、脱ごうか」
係員はその芽衣子の心情を知ってから知らずか、同じような調子で言った。
「脱ぐ……?」
「パンツをだよ。脱いで」
「あっ、パンツか」
芽衣子は言われて初めて、パンツを脱がなくてはならないという事実に気付いた。おむつを穿くということばかりに気を取られていて、愚かにも、パンツを脱ぐことが思考からスッポリと抜け落ちていた。そうすれば、当然、裸のお股をこの係員に見せる破目になる。そのことに今になって考えが及んだ。
(私、この係員とは、たった今、知り合ったばかりだよ。そんなほとんど赤の他人と変わらない人に、裸を見せるなんてできない)
芽衣子は、恥ずかしい恥ずかしくないの問題以前に、道徳として、そういうことをしてはいけないと思った。
少なくとも、今すぐそうする覚悟は固まっていなかったので、
「えっと、どうやって……」
などと当たり障りのないことを言って、時間を稼いだ。
「どうって、いつものように脱いでよ。おかしなことを言うわね」
係員は失笑した。
「ああ、えっと……」
「もう、手間のかかる子ね。じゃあ、ゴロンとして」
(ゴロン?ゴロンてなんだ……)
と思っていると、芽衣子は肩を係員にグイッと押されて、簡単に後ろに倒されて、柔らかいじゅうたんに背中をベタリをつかされた。ゴロンというのは寝転ぶことか、と理解できた
この辺りから、係員の言動はぞんざいになってきた。係員からすれば普段通りのやり方をしているに過ぎないのだろうが、それを初めてやられる芽衣子の側からすれば、少し荒っぽいと思わざるを得なかった。
スカートの裾が乱れてパンツがチラリと見えていたので、芽衣子はそこを右手で抑えようとした。が、それより早く、その手首を係員につかまれた。係員は、
「お手々はここね」
と言って、それを芽衣子の体の脇に置かせた。
芽衣子は、その係員のやさしい声の中に、ある種の凄みが利いているのを感じ取って、自然に体がすくんだ。なされるがままに、股間のパンツを少しはみ出させた状態で、仰向けに寝そべっていた。
「ふふ、良い子ね」
係員は、抵抗せず素直に従っている芽衣子を見下ろして、満足そうに微笑んだ。そして、芽衣子の額を触って、乱れた前髪を整えてやった。芽衣子はそれに対しても、身じろぎしなかった。
黙り込んでいる芽衣子に、係員は、
「やっぱり、恥ずかしい?」
と、今度は本当にやさしい声音で語りかけた。芽衣子は、「うん」と言うように、わずかにあごを引いた。
「恥ずかしがらなくてもいいじゃない。だって、ここには私とあなたしかいないんだから」
係員はそう言って、芽衣子のあごの下をコチョコチョとくすぐった。芽衣子は「ひっ」と手足を縮めた。
さらに、係員の手は芽衣子の脇腹へ伸びて、上着の裾をかいくぐって、お腹を直にくすぐった。芽衣子は体をグネグネとよじって、くっくっと笑い声をもらした。やがて、堪え切れず、
「あはは、やめてよぅ~」
と声を上げてしまった。
30 アニメパンツの観察
係員はまだ二十そこそこの年齢で、子供はいなかったが、仕事柄、数多くの幼児を相手にしてきた経験があるので、駄々をこねる子に対しては、脅かしたり、あるいは宥めすかしたりと、その扱いには慣れていた。
今回の相手である芽衣子は幼児と呼ぶには大きすぎる女の子だったが、それでも何とか和やかな雰囲気を作って、
「じゃあ、パンツを脱ごうね」
と言える所まで持っていった。
「……」
芽衣子はもはや諦めの境地にあったが、いざ脱ぐ段になると、嫌そうに顔をしかめた。係員はその反応を見て、もう少し気持ちをほぐしてあげた方がいいようだと考えて、
「あっ、そうだ。その前に、芽衣子ちゃんがどんなパンツを穿いてるのか、もっとじっくり見せてちょうだい」
と言った。そこには慰撫するという目的はもちろんあったが、それを見たいというのも本音であった。
「私のパンツを見るの?」
「そう。別に構わないでしょ」
「うーん、それは……」
芽衣子は悩んだ。しかし、係員は、もう面倒とばかりに、芽衣子の許諾をまたずに、いきない手を伸ばして、そのスカートをガバッとめくり上げた。その下からは、可愛らしいンツが丸出しになって、白日の下に晒された。
「わぁっ」
芽衣子は叫んだ
「あらっ、かわいいパンツ穿いてるじゃない。へぇー、こんなパンツ穿いてたんだ。意外だね」
係員も驚きの声を上げた。
芽衣子は一応は叫んだものの、正直な所、パンツを見られること自体は、同性が相手なので、大して恥ずかしいとは思っていなかった。しかし、パンツを見た係員の反応が変に大袈裟だったので、芽衣子は訝し気に思って、仰向けのまま頭だけをもたげて、自分でも視線をそこにやった。
(うおっ)
と芽衣子は今度こそ、心底驚いた。自分が今、穿いているのは、アニメキャラクターのパンツだった。実物を見て、そんなパンツを穿いて来たことを思い出した。
それは芽衣子のお気に入りの一枚だったが、あまりにも幼稚なデザインなので、休日に穿くとか、学校に穿いて行くにしても体育の着替えのない日に限るなど、他人には知られないように配慮していた。
(しまった。今日はこのパンツを穿いていたんだった。今の今まで忘れてた。普通のパンツなら別に構わなかったのに、こんな幼稚なのを係員さんに見られるなんて、恥ずかしいなぁ……)
それはピンク色の生地に、アニメキャラクターのイラストが全体的にあしらってあるという派手なデザインで、いかにも小さな女の子が喜びそうなパンツだった。見掛けも幼児向けという印象が強かったし、そもそもの対象年齢としても、精々、低学年向けのはずだった。
芽衣子は自分でもその点は承知していたが、その可愛さにひかれて、サイズ的に穿けるのをいいことに、時に妹の彩香から冷やかされつつも、いまだに愛用していたのだった。
そのパンツの色合いは、横たわっている芽衣子のすぐ横に置いてあるおむつと比べても、それほど遜色はなかったし、むしろ、おむつの方がまだしも地味であるとさえ言えた。
(よく考えたら、私、おむつよりも派手な柄のパンツを穿いていたんだな……)
それは妹も「お姉ちゃん、幼稚園児のパンツみたいだよ」と言って茶化すぐらいなので、他人に見られたら、「まだ、こんな幼稚なパンツを穿てるの?」と本当に馬鹿にされ兼ねなかった。事実、目の前の係員も、芽衣子のパンツにジッと珍し気な視線を向けていた。
31 くすぐって慣らす
係員は手を伸ばして、芽衣子のパンツにそっと指を触れた。さらに、
「ふふ、ずいぶんと可愛いパンツを穿いているね。もうちょっと良く見せて」
と言って、仰向けの芽衣子の膝を左右にグイッと押して、両足を大きく開かせた。係員は芽衣子の膝の下に手を差し入れて、片足を跳ね上げさせる姿勢を取らせたので、芽衣子は起き上がろうにも、身動きが取れなかった。
芽衣子は横たわったままの状態で、内ももの敏感な肌やパンツの股間を部分を係員にベタベタと執拗にまさぐられた。その手付きは、強すぎず、弱過ぎずの絶妙な力加減で、芽衣子はくすぐったいような、もどかしいような気持ちになった。
そのうち、背筋にゾクゾクとする感触を覚えて、芽衣子は堪らず、上体を反らして、
「うっ、あう、んんっ」
と悩まし気な吐息を幾度となくもらした。
「芽衣子ちゃんて、くすぐったがり屋さんなのね。じゃあ、もっとしてあげよう」
係員も調子に乗って、指先の動きをさらに速めた。芽衣子は、もう言葉を発する余裕もなくなって、ただ「ふっ、ふっ」と切なそうに喘いでいるだけだった。
芽衣子は太ももの周りを愛撫されているうちに、段々とその刺激にも慣れてきて、気持ちよさそうな表情を浮かべ始めた。うっすらとまぶたを閉じて、そのまま寝入ってしまいそうでもあった。
スカートはめくれ、幼稚なアニメパンツは丸出しになっていたが、もうそんなことは気にも留めていないようで、自らさらに股を広げて、もっともっと太ももをナデナデして欲しいという態度を示した。
係員は、芽衣子のようなある程度の年齢の少女が相手でも、何とか宥めて、自分の思い通り手玉に取れたことに密やかな満足を覚えた。少し悪戯心が起こって、芽衣子のパンツの前部分をポンポンと軽く叩いて、
「今時の女の子って、皆、こんな派手なのを穿いてるの?これって、何かのアニメだよね」
と、芽衣子があまり触れて欲しくないはずの点をあえて質問した。
「……うん」
と芽衣子は小さく答えた。
「お友達はどう?同じようなのを穿いているの?」
係員は訊きながら、律動的に動かし続けている右手をパンツの前から、もう少しばかり下方へ徐々に移動させた。
芽衣子はパンツ越しに股間へ刺激を受けているうちに、ある箇所をトンと叩かれて、何かを感じたのか、「んっ」と少し顔をしかめたようだった。
係員はその変化を見逃さず、そこを狙って、中指の先端をトントンと集中させた。すると、そのうち、パンツの布地の下で、何か小さな突起が固く盛り上がってくる感触がした。それと同時に、芽衣子はまたフウフウと吐息をもらしはじめた。その吐息の合間から、
「穿いてる友達も多いよ」
と健気と答えた。
しかし、実際には、同学年でアニメパンツをまだ穿いている女子など、芽衣子が知る限りでは皆無だった。芽衣子は自分でも(我ながら、見え透いた嘘だな)と心の中で自嘲的に思った。
もちろん、係員もそれは見栄を張っただけの言葉であるということは百も承知だったが、
「あら、そうなの、知らなかったわ」
とあえて信じる振りをして見せた。しかし、係員は、その笑顔の下では全く別のことを考えていた。
(芽衣子ちゃんは、まだこんな幼稚なパンツを穿いて喜んでいるってことは、まだ精神的に幼いのかな?それとも、家庭ではママからそういう厳しい躾けを受けているってことなのかな?どちらにしても、かなり私に懐いてきたし、もうそろそろ頃合いかな)
パンツ丸出しで、太ももを撫でられて、ジッと大人しくしている芽衣子を見て、係員は、この調子だと、パンツを脱がしておむつを穿かせる作業は楽にできそうだと思った。
32 パンツを脱ぐ
係員は前屈みになって、仰向けに寝ている芽衣子のパンツをつかんだ。
「じゃあ、脱がすよ。足を真っ直ぐにして。お尻を浮かせて」
(いよいよ脱がされるのか。いやだぁ)
と芽衣子は心の中で叫びつつも、素直に自らお尻を浮かせた。胸の鼓動はドキドキと高鳴った。
間髪入れず、パンツはスルリと脱がされた。芽衣子は、股間の辺りがヒヤッとして、自然に「ああん」と情けない悲鳴がのどからもれた。
係員はパンツを芽衣子の足先から抜き取って、
「ほら」
と言うように、それをぶら下げて、じゅうたんの上に横たわる芽衣子に見せた。
その時、係員の慧眼は、パンツの内側に付着した微量の粘液を見逃さなかった。それはキラリと光を反射していた。
(あら、こんなものが付いてる……)
それは禁断の快楽の証拠であり、女児用アニメパンツには相応しくないものだった
(芽衣子ちゃんたら、もうそういう悪い癖を知っているのか。可愛い顔をしているくせに、いやらしい子なのね。私が指でツンツン突いてあげたのがそんなに気持ち良かったのかしら)
と係員は苦笑した。ただ、自分が与えた愛撫に対して、芽衣子がそのような反応を素直に示したことについて、係員はまんざら悪い気持ちはしなかった。
係員はその性格として、幾分か嗜虐的な面を持っていた。しかし、今は勤務中だし、また、相手はあどけない少女なので、その不名誉な事実を露骨に論うのは自重した。無言で表情も変えず、パンツの濡れた部分を内側にして、丁寧に畳んだ。しかし、そうしながらも、
(この後、私一人になったら、この芽衣子ちゃんパンツのネバネバをペロペロ舐めとってあげるからね)
と、胸の裡で変態的な欲望を醸し出していた。
係員はそんな想像をするだけで、口の中に唾液が溢れてきて、思わずジュルリと舌なめずりをした。さらに、自分のスカートの下のショーツの内側では、愛液がジュッと分泌され、股間の布地に染み込んだのが感じられた。
(私も、芽衣子ちゃんのことばかり悪くは言えないわね……)
と係員は密かに自嘲した。
一方の芽衣子は、自分の世話をしている係員がそんな犯罪的な妄想をしているとはつゆ知らず、下半身を裸にされた心細さに、身を縮こまらせていた。
パンツを脱がされて、裸の股間を晒すだけでも、相当の恥ずかしさを覚えた。しかし、それに加えて、今からおむつを穿かされるという処置が待ち構えているのだった。芽衣子は、裸の下半身におむつを当てられている自分の姿を想像して、顔を赤らめた。
(待てよ。そうやって、おむつを穿かされるためには、係員の目の前で、お股をおっぴろげる必要があるじゃないか……)
芽衣子は今になって、初めてそのことに気付いて、愕然とした気持ちになった。
すでにパンツは脱がされてしまった。そして、次には、開脚させられて、素肌の股間を見られながら、おむつを穿かされるという運命にあるのだった。芽衣子はその一連の過程を想像すると、羞恥やら困惑やらで、頭がカーと熱くなって、クラクラと目まいがするようだった。