『おねしょと神頼み』(2)
🕑 Added 2024-05-23 11:17:26 +0000 UTC
四章 困った時の神頼み(20ー25)
20
暗闇の中で、すでに隣の咲良は寝息を立てていた。優月は目をつぶって、物思いに耽っていた。
(咲良も似たようなことを考えていたんだな……)
優月は、最近出しゃばり気味の咲良を、妹として可愛いと思うのが半分、そして、うざいと思うのが半分という所だった。
二人は姉妹で同じ部屋に寝起きしていたので、おねしょをしたり、おねしょパンツを穿いていることは、隠したくても隠しようが無く、そのため、咲良から茶化すような扱いを受けるのも、やむを得ないことだった。
きっと明日の朝も、咲良は、「お姉ちゃん、どうだった?おねしょした?」と、確認してくるだろう。もし、おねしょしていれば、バレるのは確実だった。
(あーあ、自分の部屋がほしいなぁ)
優月はこれまで何十回となく思ったことをまた繰り返した。
(自分の部屋があったら、こんな気苦労しなくて済むんだけどな。でも、夜、一人だけで寝るのは、ちょっと寂しいかも……。要は、私のおねしょが治ったら、それでいいんだよ。神様がいたら、おねしょが早く治るようにお願いするんだけどなぁ。神様、三日連続のおねしょは避けたいのです。今夜だけでも、おねしょしないようにして下さい……)
優月は夢心地の中で、祈るような気持ちになった。ただし、優月は信仰心など特に持っておらず、それは困った時の神頼みに過ぎなかった。
20
その夜、驚くべきことに、優月の夢の中に神様が現れた。
その風貌はマンガなどに出てくる神様にそっくりで、長い白髪と、胸まで垂れたアゴヒゲがあって、西洋人みたいな彫りの深い顔で、右手には杖を持っていた。
優月はパジャマ姿のままで、フワフワの白い雲の上に立っていた。
(ここはどこなの?天国?)
その神様らしき人物は、雲のさらに一段階高い所に立っていて、優月を見下ろしていた。
(地面に手をついて拝もうか……。まあ、そこまでしなくても、いいか)
優月は、あまりの驚きで、口をぽかんと開いて、呆然としていた。そんな優月に向かって、神様は言葉を発した。
「私は神だ。お前は私に用があるのだろう?」
「……」
「そうじゃないのかね?」
「あ、はい、そうなんです、実は……」
優月は必死になって、自分の状況を説明した。妹に咲良という女の子がいること、自分だけおねしょが治らないこと、妹との関係がギクシャクしていることなど、できるだけ分かりやすく事細かに説明した。
(待てよ、神様なら、それぐらいお見通しなのでは?)
優月は途中でそう思ったが、ともかく、これまで経緯を切実に訴えた。
全て聞き終わると、神様はゆっくりうなずいて、
「ふむ、なるほど。それで?」
と言った。
「はい、それで、お願いがあります」
優月は、自分のおねしょを治してほしいと言おうとした。しかし、その瞬間、いかなる悪魔のささやきか、今まで一度も抱いたことのない考えが頭の中に浮かんできた。
(いや、待てよ、それじゃあ、咲良への仕返しにはならないよな……)
優月は、しばらくの間、どうしようかと腕を組んで呻吟していた。神様は辛抱強く待ってくれた。
「神様。あの、どんなお願いでも叶えてくれるんですか?」
「もちろんだ。私は神だから、どんな願いでも叶えてやろう」
「じゃあですね、私の自分のおねしょが治るんじゃなくて、妹のおねしょが治らないようにして下さい。妹がまたおねしょするようにして下さい」
優月は思い切って言った。その願いは、神様にとって意外だったようで、「ふむ?」と言って、首をひねった。
(やっぱり、こんなふざけたお願いはダメだって断られるかな?)
優月は内心ちょっと怯む所があったが、表面上は真っ直ぐ神様を見つめていた。
「願いはそれでいいのかね?」
「あっ、はい」
「よかろう。では、早速その願いを叶えてやる」
神様は厳かに言って、右手の杖を持ち直して、その先端を下方へ向けた。
優月の目には何も見えなかったが、その杖からは摩訶不思議な魔力が出ていて、それが下界のどこかで寝ている咲良に当たって、何らかの作用を及ぼすということなのだろう。
優月は雲の端から身を乗り出して、
(どれどれ、ここから、私の家の屋根は見えるかな?)
と思って、雲の下をのぞき込もうとしたら、その瞬間、目が覚めた。
優月は布団の中で横たわっている自分を発見した。
21
(変な夢、見ちゃったな)
あまりにバカバカしい夢だったので、優月は思い出しながら、噴き出しそうになった。
また、それ以上に、夢の中とはいえ、あんなヘンテコなお願いを真顔でした自分が、我ながら恥ずかしくなって、優月は赤らめた顔を布団の中に埋めた。
(でも、夢は潜在意識の現れだとかいうよな。私、心の底では、あんな望みを抱いていたのだろうか?)
優月は自分で自分が少し怖くなった。
(あれ?なんか、お股が温かい……)
ふと優月はパジャマのズボンの中に異常を感じて、そこに手を突っ込むと、おねしょパンツはチョビッとだったが、おしっこで濡れていた。今までの経験上、夢を見ると、その翌朝は高い確率でおねしょしたが、今回も例外ではなかった。
(うう、あんな変な夢を見たせいで、おねしょしちゃったよ。何が神様だ)
もっとも、自分のおねしょを治してほしいとお願いしたわけではなかったので、今朝のおねしょを神様のせいにするのは、お門違いだった。神様との約束がきちんと守られているかは、咲良がどうなったかを調べなければ、何とも言えなかった。
優月は頭を枕から浮かせて、隣の布団の咲良を見た。咲良は口を少し開いて、穏やかな顔で寝ていて、そこからは普段と異なる様子はうかがえなかった。優月は、昨夜の夢をまともに信じているわけではなかったが、やはり、幾分かは気になっていた。それが虚妄なら虚妄だと確認したかった。
(まあ、おねしょなんて、してないとは思うけどね)
優月は咲良の掛け布団の下にそっと手を差し入れた。肘を伸ばして、手をスルスルと潜り込ませて、咲良の腰の辺りにまで届いた時、敷き布団の表面にジトッとした感触を人差し指に感じた。
(あれっ?)
手を引き抜いて、その指先を調べると、確かに濡れていた。鼻先まで持っていくと、懐かしいような甘い香りがしないでもなかった。
(ウソ……)
優月の心臓は早鐘を打つようにドクンドクンと高鳴った。思い切って、咲良の掛け布団をガバッとめくり上げた。大の字に寝ている咲良の全身が、黎明の薄明りの中に照らし出された。
咲良のパジャマの股の間を、優月は目を凝らして見た。パジャマと布団は、その辺りだけ暗く変色しているように見えた。
(影かな?いや、違う。濡れてるんだ……)
優月はすぐそばに膝をついて、そのグッショリした布団の染みの上に、手の平を置いた。
(まだ温かい。出した直後なのか……。おねしょだ。咲良、おねしょしたんだ)
優月は心の中で、「うわぁ、うわぁ」と叫んで、一人、早朝から、鼻血でも出さんばかりに興奮した。その一方で、当の咲良は、まだ何も知らず、おねしょで濡れた布団の上に横たわって、気持ち良さそうスヤスヤと寝ていた。
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(どうしよう、どうしよう)
なぜか優月の方がうろたえてしまい、これから何をしたらいいのか分からなかった。しばらくの間、咲良の姿を見下ろしながら、そのまま一分程、身じろぎもしなかった。
咲良は掛け布団を外されて、肌寒くなったのか、一度、「うーん」とうめいた。
(あっ、起きるかな?)
と思ったが、また寝入ってしまった。
(どうしようか。起こしてやった方がいいか。それしかないよな……)
ようやく優月は決心して、
「さ、咲良」
とささやいて、おそるおそる咲良の肩をつついた。しかし、それぐらいでは、咲良は全く起きる気配は無かった。
「ねえ、咲良、起きて」
まだ咲良は起きなかった。ついに優月は、寝ている咲良の肩をグイグイ揺すると、ようやく咲良は薄目を開けた。
「あ、咲良、ようやく起きた」
「うーん、何?お姉ちゃん、もう朝?」
「咲良、あなた、おねしょしてるよ」
「んー?」
「おねしょ」
「おねしょ?お姉ちゃんが?」
「違うよ。あなたが、おねしょしたんだってば」
咲良は布団の上で体を起こしたが、まだ寝ぼけていて、状況を飲み込めていなかった。それでも、何か異変を感じたのか、股間の辺りを手で探った。ようやく布団もパジャマもおしっこでグッショリ濡れていることに気付くと、その瞬間、
「ひぃっ」
と鋭い叫び声を上げた。それがあまりに唐突だったので、優月もビクッとした。
咲良は飛び上がるように布団の上で両膝立ちになって、濡れたパジャマをつまみながら、布団の染みを見下ろして、
「えっ?ええっ?」
と慌てふためいた。
優月は、アタフタする咲良を眺めていると、その仕草が滑稽に思えてきて、思わず笑いそうになったが、
(笑っちゃいけない)
と慌てて噛み殺した。
咲良は優月の顔を見た。二人の間に、奇妙な沈黙が落ちた。
「何?」
優月が問い掛けようとしたら、それと同時に咲良は、
「うわぁーん」
と絶叫した。おねしょ布団の上にへたり込んで、顔をクシャクシャにして、手放しでエグエグ泣き出した。
ただ、優月はちょっと冷静で、
(おねしょぐらいで大泣きするとか、情けないやつだな。咲良はしょせんは小学生ってことか。私はおねしょして、泣いたことなんて、ほとんどないんだからね)
と姉らしい余裕を感じた。また、近頃はおねしょを巡って、咲良とは少しばかり確執があったので、今回の出来事で、優月は溜飲が下がった気がした。
(私って、性格悪いのかなぁ……)
しかし、ポロポロと涙をこぼしている咲良を目の当たりにすると、やはり優月は哀れを催した。
「咲良、私、ママを呼んでくるね……」
咲良は嗚咽しながらも、小さく「うん」とうなずいた。
23
優月はママと一緒に部屋に戻った。咲良は、
「こんなん、ウソだぁ」
などと言って、まだ布団の上でグズグズ泣いていた。
久しぶりの大おねしょで、布団もパジャマもおしっこでグッショリ濡らした咲良だったが、目を真っ赤にして泣きはらしながらも、意外に負けん気が強く、
「おねしょは、今日だけだもんっ」
とママに強がりを言った。しかし、ママはまともに相手せず、
「はい、はい、そうだね。じゃあ、濡れた服を脱ごうね」
と宥めるように言った。咲良は、ママが怒っていないと分かると、急に大人しくなって、素直にパジャマを脱がされた。
ママは手際よく咲良を裸にして、手を取ってお風呂場へ連れて行った。
部屋に一人残された優月は、しばらくの間、
(それにしても、でかいおねしょだな)
と咲良の布団の大地図に見とれていた。それは縦横五十センチぐらいは優にありそうだった。
(あっ、そうだ。そういえば、私もおねしょパンツを濡らしたんだった)
優月は自分もおねしょしていたことを思い出した。おしっこに濡れた当て布はすでに冷えていて、何となく、そこをパジャマ越しに触っていると、不意に背後から、
「優月」
と声を掛けられた。優月はビクッとして振り返ると、いつの間にかママが部屋に戻って来ていて、襖の陰から頭だけをヒョコリと突き出していた。
「えっ?あっ、ママか。どうしたの?」
「確認しておきたかったんだけどね、あなたはしてないよね?」
「何を?」
「おねしょを」
「し、してないよ」
優月はできるだけ、さりげなく答えたつもりだったが、その声は変に上ずってしまった。ママに疑いの目を向けられたような気がして、思わず両手を前にやった。
「よかった。二人分をいっぺんに後始末するのは大変だからね」
「してないったら」
「ふふ、優月はお姉ちゃんだもんね。じゃあ、ママは咲良の体を洗ってあげるから」
ママはそう言って、再び部屋から出て行った。
(よかった、信じてくれた)
優月はママにウソをついたのはちょっと心苦しかったが、今この場で、「私もおねしょしちゃったの」と告げる勇気はなかった。
再び一人になった優月は、また咲良のおねしょ布団を眺めながら、今からのことを思案した。
(私の濡れたおねしょパンツ、どうしよう。こっそり自分で始末するか……)
しばらく色々と考えたが、それ以外によい方法は思いつかなかった。
しかし、今はママと咲良がお風呂場を使っているので、もうしばらく待つ必要があった。優月は所在なげに、目の前に放置されている咲良の敷き布団を見下ろしていたが、
(そうだ、私がこのおねしょ布団を干しといてやろう)
と思い立った。
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優月はしゃがんで、「ヨッコイショ」と年頃の少女らしくもない野暮な掛け声を出して、両手で布団を抱え上げると、ゆっくりと部屋を横切った。濡れたおねしょパンツのせいもあって、ちょっとガニ股になったが、そのまま廊下を進んでいった。
優月は、いったんは布団を廊下の縁側に置いて、踏み石の上のサンダルを履いて、裏庭に下りようとした。ちょうどその時、尿意を感じた。
(なんか、おしっこしたくなっちゃったな。どうしよう……)
優月はその場で突っ立たまま、お手洗いに行こうか、少し迷ったが、
(まあ、まだ大丈夫でしょ。先に布団を干してしまおう)
と判断して、裏庭に出た。
縁側から物干し場までは、全然大した距離ではないが、両手で重い布団を抱えて、エッチラオッチラ運んでいくのは、意外にしんどい力仕事だった。
また、物干し竿は優月の背丈ほどの高さがあったので、そこまで布団を持ち上げるのも、小柄な優月には大変な作業で、かなり手間取った。
すでにおしっこの方は、急速に切羽詰まっていた。
(早く、早く。おしっこ、もれちゃうよ。サッサと干して、家に戻って、お手洗いに行って、おしっこしたい……。いや、そのままお風呂場に直行して、そこでしちゃおうか……)
優月はそんなズボラなことを考えながら、「ヨイショ」と布団を持ち上げた。しかし、焦ってやったせいか、布団は竿からズルリと滑って、地面に落ちそうになった。
(おっと)
優月はとっさに中腰になって、布団を受け止めた。しかし、その時、変に力んだせいで、おしっこがジョバッと出た。
「わあんっ」
優月は思わず叫んだ。おもらしが、というよりも、甲高い変な声を上げてしまったことが恥ずかしく、優月は周りをキョロキョロと見渡した。
(よかった。誰もいない。私の変な叫び声、誰にも聞かれなかった)
しかし、股間には温かい感触がジワリと広がっていた。優月は、家の外でおもらししてしまって、さすがにちょっと焦った。しかし、すぐに、
(うーむ、まあ、いっか。おねしょパンツは、始めから濡れてたし、どうせ洗わなきゃいけないのは、元々なんだしね……)
と気を取り直した。
ただ、一度解放した尿意は、もう我慢が利かなくなって、おしっこはおねしょパンツの中で、チョビッチョビッと少しずつもれて、当て布に染み込んでいくのが、自分でも感じられた。
(わわっ、おねしょの次はおもらしか。じゃじゃもれだ……。あーあ、咲良のおねしょ布団のせいで、私、おもらししちゃったじゃんか)
しかし、この時は運よく、当て布は厚く敷いてあったので、まだかなりの余裕がありそうだった。
(もう、これ、サッサと片付けてしまおう)
優月は膝や肩を使って、布団を何とか持ち上げて、ようやく干せたが、おねしょの染みは布団の真ん中にあったので、それが優月の素肌の顔や首などにペタッと触れた。
(うっ、でも、すぐに洗うからいいや……。布団を干すってのも、なかなか大変なんだな。最初からママに手伝ってもらえばよかった……)
優月はフゥと溜息をついて、一歩下がって、自分が干した布団を眺めた。
(ママ、『一人で干せて、えらかったね』って褒めてくれるかな?)
その頃には、すでにおしっこは全部出てしまっていて、すっきりとした気分だった。しかし、その分だけ、おねしょパンツはグッショリと濡れて、ズシリと重く感じた。
(おしっこは、お風呂場でする予定だったんだけど、結局、ここで全部出しちゃったな……)
パジャマのズボンの中では、おねしょパンツはたっぷりのおしっこを吸収して、その重さでズリ下がりそうになっていた。優月はそれを前と後から両手で支えながら、ヨチヨチと歩いて、家の中へ戻っていった。
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咲良のおねしょ布団は干せたので、次は、自分のおねしょパンツを洗う番だった。しかし、それは秘密裡に行う必要があったので、優月は部屋に戻ると、聞き耳を立てて、家の中の様子をうかがった。ママと咲良の二人は、向こうの部屋で着替えの最中のようだった
(お風呂は空いたらしいな。よし、今だ)
優月は足音を立てないように廊下を進んで、こっそりと脱衣所に忍び込んだ。
そこですばやくパジャマを脱ぎ捨て、おねしょパンツだけの姿になって、お風呂場に入った。その隅にはバケツが置いてあって、その中には咲良のパジャマとパンツがつけてあった。
お風呂場の濡れた床に立ったまま、おねしょパンツの両脇のマジックテープとスナップボタンを外した。前当てを開くと、その中から当て布が零れるように床に落ちて、ビチャッと音を立てた。
おねしょパンツも取って、全裸になると、いったん、それらは洗面器につけておき、まずは自分の下半身を洗い始めた。あまり悠長に洗っている暇は無いので、それは水洗いで簡単に済ませて、次は当て布を洗い始めた。
当て布を洗面器につけて、お湯で濯いでは搾って、また濯いでは搾るという作業を三回ほど繰り返した。ここまですれば、当て布を濡らしたおしっこがチョッピリだろうが、グッショリだろうが、あるいは、それがおねしょだろうが、おもらしだろうが、もはやどうでもよくなった。最後におねしょパンツのカバーの内側をサッとお湯で洗い流した。
(これで洗いものは終わった)
優月はお風呂場を片付けて、脱衣所に出て、すばやく体を拭いた。その時、思わず「あっ」と叫んだ。着替えのパンツを用意しておくのを忘れていたことに気付いたのだ。
(どうしよう……。まあ、それは後回しでいいか……)
裸の下半身に直にパジャマのズボンを穿いた。
(なんか、スース―して、変な気分……。おっと、これを忘れちゃダメだ)
固く搾った当て布の束と、おねしょパンツを持って、脱衣所を後にした。おそらく三分にも満たない早業だっただろう。向こうの部屋では、ママと咲良の着替えはまだ終わっていない様子だった。
(ふう、よかった。見つからずに済んだ。後は、これを干すだけだな)
優月はパンツ無しのパジャマ姿のまま、再び物干し場まで来た。
幸か不幸か、優月は昨日もおねしょしたので、その時に洗ったおねしょパンツと当て布が、洗濯ばさみで吊られていて、すでに乾いていた。優月は、今洗ったばかりおねしょパンツをそれと取り換えた。濡れた当て布の方は、吊り下がっている当て布に紛れ込ませて、干しておいた。
(よーし。これで全部終わった。今日も晴れるみたいだから、すぐに乾くだろうな。このままバレなきゃいいんだけど……)
その日、優月はちょっと不安なままで過ごした。しかし、ママからは何も言われなかったので、おねしょの隠蔽は成功したと結論づけた。また三日連続のおねしょという不名誉な記録も、咲良のおねしょしに紛れて、うやむやになった。
(紙おむつは濡らしたら、もうゴマかしようがないけど、おねしょパンツなら、当て布を洗ったら、それで後始末はおしまいだもんね。やっぱり、穿くなら、おねしょパンツの方がいいや)
優月は今回の出来事を通じて、改めておねしょパンツの良さを身にしみて感じた。
五章 お姉ちゃんがお世話する(26ー35)
26
その夜、寝る前、ママと咲良の間で、紙おむつを穿く穿かないで一悶着あった。しかし、ママに
「咲良、だって、もう一回、おねしょしちゃうかも知れないでしょ。この紙おむつ、穿いといた方がいいよね?」
と説得されて、結局、咲良は紙おむつを穿いて寝ることになった。咲良の本音としても、やはり、おねしょが心配だったのだろう。
優月は隣の布団に横になりながら、二人のやり取りを見るともなく見ていたが、咲良はイヤそうな顔をして、渋々という感じで紙おむつに足を通していた。
翌朝、咲良はまたおねしょをした。そして、その二日目に続いて、三日目も紙おむつを濡らした。
最初のおねしょの後は、咲良は「これは、たまたまだもん」と、まだ威勢良かったが、三回も続くと、さすがに咲良自分も、
(私、まだ、おねしょ治ってなかったんだ)
と認めざるをえなかった。もう治ったとばかり思い込んでいた咲良の落胆は激しかった。それからというもの、毎夜毎夜ションボリとした顔つきで紙おむつを穿くので、優月はそれを横目で見て、
(そこまでガックリしなくてもいいじゃない。私はまだおねしょパンツ穿いてるんだから)
と一言口出ししたくもなったが、相手の気持ちを慮って黙っていた。その代わりというわけでもないが、少しでも咲良を励ますつもりで、優月は部屋の中で、わざとパジャマのズボンを穿かず、自分のおねしょパンツの姿を、これみよがしに見せたりした。それは、
(ほら、私もまだ、おねしょパンツ穿いてるんだよ。だから、紙おむつぐらいで、グチグチ言わなくていいじゃん)
という意思表示だった。ただ、残念ながら、咲良は優月のそんな気遣いに全く気付いていないようだった。
優月はそんなやらでものことをしたのも、事情があって、
(この前の夢の中でしたお願いと、咲良のおねしょは無関係だよね……。単なる偶然だよね……)
と、未だにそれが心に残っていたからだった。
咲良が三日連続でおねしょした朝、ママは優月だけを「ちょっと、こっちへ来て」と呼んだ。
(なんだろう)
優月が思っていると、ママは内緒話でもするように、声をひそめて話し始めた。
「咲良、また、おねしょするようになっちゃったね」
「うん、そうだね。まだしばらく続くのかもね」
「それで、あなたに頼みがあるんだけど」
「頼みって?」
「あなたに咲良のお世話をしてほしいの」
「私が?」
「そう。ママが面倒見てあげてもいいんだけどね。でも、あの子、何だか、ママにされるのは恥ずかしくて、イヤがってるみたいなのよ。だから、お姉ちゃんが上手くおだてて、お世話してあげて」
「うん、分かった」
「いいの?ありがとう」
ママはニッコリと笑って、優月の頭を撫でた。
(もしも、あの夢と咲良のおねしょの間に何らかの関係があったのなら、咲良のお世話をしてあげることが、その罪滅ぼしになるかも……)
優月にはそのような心情もあったが、それは別にしても、優月は妹の咲良のことは、なんだかんだ言っても好きだったし、さらに、姉として、また同じおねしょ癖のある一人の女の子として、できる限りやさしく面倒見てあげようと思った。
(まあ、とはいっても、私自身もまだおねしょしている立場だから、あんまりえらそうなことも言えないんだけどね)
優月は、ママの前では頼もしく返事したが、内心ではそのような自嘲もしていた。
27
ママから咲良の世話を頼まれた優月は、早速、張りきり出した。まず最初に、咲良に、紙おむつではなく、おねしょパンツを穿かせようとした。
「ねえ、咲良、その紙おむつはやめて、おねしょパンツにしたら?」
部屋で姉妹二人きりの時に、優月はそう切り出した。ちょうど咲良はパジャマのズボンを脱いで、紙おむつを穿こうとしている時だったが、手の動きを止めて、
「なんで?」
と訊き返した。「いきなり何?」というようなキョトンとした顔をしていた。
「だって、自分で処置できるから」
「どういうこと?」
「紙おむつだとさ、おねしょしたらママに濡れたのを渡すわけでしょ。でも、それってなんか恥ずかしいじゃん。それにね、今ある紙おむつを全部使っちゃったら、また新しく買ってもらわなくちゃならないでしょ。でもおねしょパンツなら、何度やっても、洗って干したら、また使えるわけだし」
「ふーん、なるほどね。じゃあ、そちらに変えようかな……」
最近の咲良はずいぶんと気弱になっていた。
「そうしなよ」
「どうしよっかな。お姉ちゃん、今はおねしょパンツを穿いてるんだよね?」
「そうだよ。ほら」
優月は頼まれもしないのに、パジャマのズボンを下ろして、おねしょパンツに包まれた下半身を咲良に示した。咲良はそれを見て、少し心を動かされたようだった。
「でも、私、穿けるな」
「穿けるよ。だって私が穿けてるんだから。咲良より私の方が体が大きいでしょ?」
「大きさの話じゃなくて、穿き方の話。私、どうやって穿くか、忘れちゃったかも。だって、もうずっと、おねしょパンツなんて穿いてないもの」
「穿き方なら、教えてあげるよ。そこに保管してあるんだよね?」
優月はタンスの方に視線をやった。
「多分あると思うけど」
「探してみて」
咲良はちょっと戸惑ったが、優月が珍しく強気なので、その勢いに呑まれ、「う、うん」と返事して、言われた通りタンスの中を探し始めた。「えーと、どこかな?」とつぶやきながら、いくつかの引き出しを開け閉めしていたが、やがて、「ここかな。おっ、あった、あった」と言って、奥の方からおねしょパンツを引っぱり出した。
「あった?じゃあ、見せて」
優月はそれを受け取ると、表面を触ったり、内側をのぞいたりして、その保存状態を調べた。あまり使用していないためか、優月のヨレヨレのおねしょパンツとは違って、布地はまだしっかりとしていた。
「どう?」
「十分使えそう。当て布もあるよね?」
「うん。同じ場所に入ってた」
優月はその当て布も手に取ると、縁もほつれていないし、色褪せてもおらず、ほとんど新品同様だった。自分が使っているおねしょパンツと当て布がみすぼらしく思えて、
(咲良は、こんなきれいなのを穿けて、いいなあ……)
とうらやましくなった。
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(よし、これを咲良に穿かせてやろう)
優月はそう思って、敷き布団の上にそのおねしょパンツをピンと広げて、その内側に当て布をキッチリと敷いた。
「じゃあ、穿こうか」
「……」
「ほら、ボサッとしてないで、ズボンとパンツを脱いでよ」
「うん……」
咲良はそう返事したものの、そのおねしょパンツを遠慮気味に見下ろしているだけだった。
優月は、咲良の躊躇している様子から、
(そうだよね。自分だけ脱がされて穿かされるのって、恥ずかしいもんね)
と機敏に察した。
優月は、咲良が恥ずかしがらないように、自分がお手本になってあげようと思った。
「咲良、私を見て」
と一声かけると、パジャマのズボンをサッと脱ぎ捨てた。さらに、その下に穿いていたおねしょパンツの前に手をかけて、脱ぐ素振りを見せた。
「お、お姉ちゃん、急にどうしたの?」
「私、今から、いったん、このおねしょパンツを脱いで、もう一回穿き直すからね。、咲良もそれを真似して、同じように穿いて」
「分かった。そうする」
咲良はたじろぎながらも、うなずいた。
優月は立ったまま、今穿いているおねしょパンツのマジックテープをベリベリと剥し、股の間から引き抜くように取り外すと、自分の布団の上に置いた。咲良の視線は、そのおねしょパンツと優月の裸の下半身とを忙しく往復した。
「私は脱いだよ。咲良も脱いで」
優月に言われて、咲良も自発的にズボンとパンツを脱いだ。二人の下半身はそろって丸出しになった。
「わぁ、下だけスッポンポンになっちゃった。ヘンな感じ」
咲良はお姉ちゃんと同じように、未発達の可愛らしい丘を晒しながら、うれしそうにはしゃいだ。
「じゃあ、穿くからね。まずはおねしょパンツをこんな風に置いて……」
「うん」
「で、この真ん中辺りにしゃがんで、お尻を乗せて」
二人は絹のようなスベスベの太ももを大きく開いて、股の間が丸見えの状態で、おねしょパンツの上に座り込んだ。お互いにそのあられもない姿を見せ合いながら、優月は、
(こんなはしたない格好で向き合うのって、姉妹でもなきゃ到底無理だな……)
と冷静に考えた。
しばらくの間、優月は、普段目にすることのない咲良のその場所を何となく眺めていたが、咲良に
「それで、次はどうするの?」
と促されて、優月は慌てて、
「じゃあ、こうして」
と言って、おねしょパンツの前当てを手前に引き寄せて、剥き出しの股間にかぶせた。そして、おねしょパンツの両脇の前後を引き寄せて、それぞれの場所をスナップボタンでパチンパチンと留めた。
「こんな感じだね。それで、次は……」
優月は慣れた手付きで、マジックテープで前当てを留めた。
「えーと、このへんでいいの?」
咲良は久しぶりにおねしょパンツを穿くので、勝手がよく分からないようだった。
「それだとユルユルだから、もうちょっと締めた方がいいよ」
優月は咲良のおねしょパンツの前当てをしっかりと留めてあげた。
「うっ、ちょっときついかも」
「これぐらいでちょうどいいと思うよ」
優月は咲良におねしょパンツを穿かせてあげながら、相手を赤ちゃん扱いしているみたいで、不思議な気持ちになった。
(なんだか、ママになったみたい……)
29
優月も咲良もおねしょパンツを穿くと、二人は立ち上がって、お互いの姿を観察し合った。咲良はちょっと照れながらも、うれしそうな顔をしていた。
「よーし、穿けた。おそろいだね」
「うん、おそろいだね」
「どう?咲良。お腹、苦しくない?」
「ちょうどいい感じ」
「おねしょパンツの方がいいでしょ?」
「うーん……」
「だって、紙おむつと違って、幼稚な柄とか無いしさ」
「でも、おねしょパンツって、紙おむつよりも、かさ張ってモコモコしてるね」
「そのうち慣れるよ。それに中に当て布をたくさん敷いとけば、たっぷりおねしょしても大丈夫だし」
「ふふ、そうだね」
(二人でおねしょパンツを穿いたのなんて、久しぶりだな)
優月は、咲良のおねしょパンツ姿を見て、なつかしく思った。
しかし、優月がその感慨にふける間もなく、ほとんどその直後にママが部屋に入ってきた。偶然にしてはタイミングが良すぎるので、優月は、
(ひょっとしたら、ママ、部屋の外で聞き耳を立てていたんじゃないの)
と思ったほどだった。
「咲良、今日もちゃんと、紙おむつ穿いた?」
「あ、ママ。私、紙おむつじゃなくて、おねしょパンツ、穿いたの」
「あら、ホント。どっちでも好きな方、穿いたらいいよ」
「これはね、お姉ちゃんに穿かせてもらったんだよ」
「そうなの、よかったわね」
ママとしては、咲良本人が納得して穿いてくれるのなら、紙おむつでも、おねしょパンツでも、どちらでもいいようだった。
「ちょっと調べさせてね」
ママは咲良のおねしょパンツの足回りなどを触って、ちゃんと穿けてるかを確認した。そして、
「うん、えらい、えらい。ちゃんと穿けてるね」
と言って、優月の方をチラリと見て、意味ありげにウインクした。それは、「咲良をうまくおだてて、機嫌良く穿かせてくれたのね。ありがとう」 とでも言っているようだった。優月も、「うまくいったよ」と言うように、わずかにアゴをひいた。優月はママに褒められて、うれしかった。
その後、ママは二人をそれぞれの布団に寝させて、電灯を消して、おやすみを言って、部屋から出て行った。
優月は布団の中で暗い天井を見ながら、今日の出来事を振り返った。最近では珍しく、妹に対してお姉ちゃんらしい振る舞いができたので、優月はとても満足な気分だった。その余韻に浸って、
(ああいうお姉ちゃんらしいこと、もっとしたい)
と思いながら、目をつぶった。しかし、すぐに、
(いや、待てよ。そうするためには、咲良がまたおねしょする必要があるな)
と気付いた。それはちょっと問題だと思っているうちに、いつの間にか眠りに落ちた。
30
翌朝、咲良はまたおねしょした。結果的には、昨晩の優月の願望が実現した形だったので、優月はちょっと複雑な心境になった。
咲良は布団の上で、パジャマのズボンの中に手を突っ込んで、濡れたおねしょパンツを探っていた。これで四日連続のおねしょだったが、そう立て続けにすると、逆に、もう慣れてしまったようで、咲良は「あーあ、また、しちゃった」という程度で、あっけらかんとしていた。
(三回も四回も同じということだろうか)
優月は、朝早くから咲良に起こされて、まだボンヤリとした頭で思った。
「お姉ちゃん……」
咲良は変に甘えた声を出した。姉ならママよりも与しやすいと思っているのだろう。
「濡れたのはおねしょパンツだけだよね。パジャマと布団は無事だった?」
優月は布団の中から訊いた。
「うん、大丈夫、濡れてない」
「おねしょパンツ穿いといて、よかったね」
「私、お風呂場で洗ってくる」
咲良はそう言い残して、部屋から出て行った。
まだ早朝なので、優月はまた寝直そうかと思った。しかし、咲良が一人でちゃんと洗えるのか心配になって、眠気を振り切って、布団からはい出て、咲良の後を追った。
優月が脱衣所に入ると、すでに咲良はお風呂場から上がっていて、洗い終わった裸体をタオルで拭いていた。
「あれ?お姉ちゃん、どうかした?」
「咲良、濡らしたおねしょパンツは、どこ?」
「お湯につけてあるよ」
「もう洗った?」
「いや、まだだけど」
優月はお風呂場をのぞくと、洗面器の中におねしょパンツと当て布が沈んでいた。
(咲良は、洗ってくるって言ってたけど、それは体を洗うって意味か。よし、じゃあ、私が咲良のおねしょパンツを洗ってあげよう)
優月はそう決めると、しぶきでパジャマが濡れないように、上着もズボンも脱いで、おねしょパンツ一枚だけの姿になった。
「あれ?お姉ちゃんもお風呂に入るの?」
「洗ってあげようと思ってね」
「何を?」
咲良のその問いに、優月は言葉で答えるのでなく、行為で示した。優月はお風呂場にしゃがんで、洗面器の中のおねしょパンツを洗い始めた。
「あっ、お姉ちゃん、私のを洗ってくれるんだ」
「おねしょパンツは使ったら洗わなきゃいけないからね。でも、こんなの、すぐだよ」
優月はそう言いながら、水音を立てた。咲良は、しばらくの間、それを黙って見ていたが、
「他人のおしっこで濡れたものを触るのって、イヤじゃない?」
とポツリとつぶやくように訊いた。
「妹のだから気にならないよ」
「へえー」
咲良は感心したように言って、再びしばらく沈黙した。
優月は、咲良のおしっこで濡れそぼっていた当て布も、全く嫌がる素振りを見せず、濯いだり、搾ったりした。咲良はそれを見て、感に打たれたようだった。
「優月お姉ちゃんって、やさしいんだね。私、おねしょしたお姉ちゃんに、結構ひどいことを言ったこともあるのに……」
「ふふ、いいのよ、そんなこと。あっ、そうだ」
「何?」
「今日のおねしょはママには内緒にしといてあげるからね」
優月は、本心から喜々として洗っていた。咲良のおしっこが手に付くことなど、少しもイヤだとは思わなかった。むしろ、こんな風に妹にお姉ちゃんらしいことができるのは、何にも増してうれしいことだった。
優月はふと洗面器から顔を上げると、咲良は自分をジッと見つめていた。二人の目が会うと、お互いに「ふふ」と笑った。優月は咲良のことを好きに思った。それは咲良も同じだっただろう。
31
優月は、咲良の当て布をジャブジャブ洗って、
(もう大体、こんなもんでいいかな)
と切り上げようとしたら、ちょうどその時、尿意を感じた。
「うっ。おしっこ、したくなった。どうしよう……」
それは、水仕事をしていたせいというよりも、優月には、お風呂場でおしっこするという悪い癖があったので、それが習慣になって、こんな状況でも催してしまったのだった。
(もう、あんなことはやめなくちゃな……)
優月は改めて思ったが、尿意はかなりの強さで迫ってきたので、とりあえず、今の状態を何とかしなければならなかった。脱衣所をチラリと横目で見ると、咲良は全裸のまま壁に持たれて、手遊びをしながら、優月が洗い終えるのを待っていた。
(咲良はあっちを向いてる……。今なら、できるな。いや、でも、まだ我慢する……?)
どうしようか迷っていると、まだすると決めたわけではないのに、おしっこは勝手にピュッと出た。
(あっ)
それはおねしょパンツの中の当て布にジュンと染み込んだ。おしっこはいったん出てしまえば、もう歯止めが利かなくなって、ジャーともれて、ドンドンと当て布に染み込んでいった。
優月は、咲良におもらしがバレないように、ジッと身じろぎしないでいたが、おしっこを出すのが気持ち良くなって、ついつい、「んっ」と叫んで、両膝をモジモジさせ、姿勢も何となくぎこちなくなってしまった。優月が急に手の動きを止めたので、咲良はその不自然な様子から何かを敏感に察した。
「お姉ちゃん、どうかした?」
「べ、別に。どうもしてないけど?」
優月がそう答えている間も、おしっこはおねしょパンツの中でもれ続けていた。
「そう?お姉ちゃん、なんだか、急に動かなくなったから」
「何もしてないよ」
「そういえば、お姉ちゃん、今朝はどうだったの?」
「何が?」
「何がって、おねしょが」
(おねしょはしてないけど、おもらしなら、今、してる……)
「えっ?」
「……」
「したの!?」
「うん……」
「ウソ、ホントに?なんだぁ、お姉ちゃんも、おねしょしてたのかぁ。えっと、じゃあ、そのおねしょパンツもおしっこで濡れてるってことだよね?」
「濡れてるけど、ちょっとだけだよ」
「どれくらいした?」
わざわざ咲良は風呂場にのぞきに来た。
「ちょっと待って」
この時、ようやくおしっこは全て出切った。
「見せてよ」
「いいよ、ほら」
優月は股間からおねしょパンツを取り外して、全裸になった。それは濡らしたてなので、自分でも驚く程に温かかった。内側に敷いてある当て布の表面からは、目に見えて、恥ずかしい程の湯気が立っていた。
「おお、まだ温かいね」
咲良もおねしょパンツに手の平を当てながら、驚いていた。しかし、まさか、たった今おもらしをしたのだとは、思いもよらなかっただろう。
「あんまり触らないで。もういいでしょ」
「結構、濡れてるじゃん」
「また洗えばいいのよ」
優月はその濡れたおねしょパンツを奪うように取り返すと、洗面器にジャボリとつけて、再び濯ぎ洗いを始めた。
(そうだよ。洗ってしまえば、それでいいのよ)
優月は全裸でしゃがんで、洗面器の中で手を動かしながらも、咲良に驚きの目で見られているのは、自分でも十分に分かっていた。
(今みたいに、私がおしっこしておねしょパンツを濡らしたのは、おねしょした咲良を安心させるためなんだからね)
優月は自らに言い聞かせるように、心の中で繰り返しつぶやいていた。そして当の咲良も、
「今日はお姉ちゃんと一緒に、二人そろっておねしょかー」
と声を弾ませて、なんとなくうれしそうに言っていたので、その点は優月の狙い通りだった。しかし、少し気掛かりな点もあった。
(もしかして、咲良のおねしょパンツを洗うのにかこつけて、ついでに自分のも洗って、そうすることで、私がおねしょを隠そうとしたっていう風に、咲良に思われてるんじゃないかな……。そんな風に思われるのは心外なんだけどな……)
優月は少しばかり心配になったが、
(小学生の咲良がそこまで深く考えるはずはないか)
と思い返した。
32
優月がお風呂場から出ると、いつの間に来ていたのか、ママが脱衣所にいて、咲良の体を改めてきちんと拭いてあげていた。優月も自分で体を拭きながら、二人の会話に聞き耳を立てていると、どうやら、咲良のおねしょはママにバレていたようだった。しかし、幸いなことに、ママはさっきの優月のおもらしにまでは気付いていなかった。
(もうちょっと遅かったら、私のおもらしもママにバレる所だったな。危ない、危ない。間一髪だった)
「優月もお風呂、入ってたの?」
ママは訊いた。
「咲良のおねしょパンツを洗ってあげてたの」
優月はできるだけさりげなく答えた。
「あら、ありがとう。助かるわ」
ママはそう言ったが、そこには不審気な様子は全くなかった。もしママが「どうして、あなたまで裸んぼうなの?」と訊いたら、優月は「洗ってる時に濡れないように、脱いだの」と答えて、ゴマかすつもりだったが、そこまでは追及されなかった。
優月は体を拭きながら、すぐそばでママが咲良の体を拭いたり、ベビーパウダーをはたいたり、替えのパンツを穿かせているのを見ていると、
(私も咲良にそういうお姉ちゃんらしいこと、してやりたいなあ)
と思えてきて、ママにちょっとした嫉妬を覚えた。しかし、今はそんなことよりも、洗い終わったおねしょパンツと当て布の始末を早くしなければならなかった。洗面器の中には二人分が一緒くたに丸められて入っていたが、もしママにそれを調べられたら、「あれ?なんでおねしょパンツが二枚あるの?」ということになって、優月の粗相までバレてしまう。
(グズグズしていると、見つかっちゃう。早く干しに行かなきゃ)
優月はそう思って、すばやく体を拭きおえた。替えのパンツの用意は忘れていたが、ママが持ってきてくれていた。ただし、それは幼稚な柄のプリントショーツだった。
(もう、ママが選ぶパンツは、いつもこんなダサいのばっかりなんだから……)
しかし、この場ではそんな贅沢を言ってる暇はなかったので、急いでそのパンツに足を通した。
「私、この洗ったの、自分で干してくるね」
優月はそう言い残して、その洗い物が入った洗面器を持って、パンツ一枚穿いただけの半裸体で、脱衣所を後にした。
「そうしてくれる?じゃあ、お願い」
ママのその声を背中に聞きながら、優月は廊下を早足で進んだ。
33
優月は縁側に立って、一瞬迷ったが、
(このままでいいや)
とすぐに決心して、パンツ一枚の裸体のまま、洗面器を抱えて、裏庭に下りた。
悠長に服を着ている間に、ママがやって来て、洗面器を調べられるという危険があった。それを避けるためには多少荒っぽい手段をとるのもやむを得なかった。
(そう言えば、つい先日も、こんな風にパンツ一枚で庭に出たな……。その時はママに見つかっちゃって、ちょっと怒られたけど)
二回目ともなれば、もうある程度は慣れていて、優月は大して羞恥を覚えなかったが、早朝ということで、若干の肌寒さはあった。
(この前の時は、ママに『女の子のくせにはしたないよ』なんて言われたけど、自分の家の庭なんだから、パンツ一枚で歩いたって、別にいいんじゃないのかな。今ママは、咲良の面倒を見てるから、しばらく、こっちには来ないはず……)
優月は、パンツ一枚の姿で、全身を屋外に晒すという非日常的な行為に、体がゾクゾクして鳥肌が立った。それは早朝の冷たい空気のせいだけではなかった。優月はその不思議な感覚をもっと堪能したかったが、
(とりあえずは、濡れた洗い物を干してしまわなくては)
と思って、そちらの方を優先した。
早朝の爽やかな微風を素肌の胸やお腹や太ももに感じながら、優月は裏庭の物干し場までの短い距離をゆっくりと歩いた。
物干し場にはすでにたくさんの服などがぶら下っていて、数枚の当て布もヒラヒラとたなびいていた。優月はその中に紛れ込ませるように、洗ったばかりの濡れたおねしょパンツと当て布を洗濯バサミで吊り下げた。
(このお天気なら、すぐに乾くよね。よーし、終わった。バレずに済んだぞ)
優月は一安心して、「うーん」と伸びをした。時刻は日の出の直後で、朝日が優月のパンツ一枚の全身を照らした。
34
しばらく陽に当たっていると、体がポカポカと温まってきたせいか、優月の心の中で、ある悪戯っぽい衝動がムクムクと頭をもたげてきた。
(この場所で、思い切って、このパンツも脱いで真っ裸になってみたい……。いや、でも、まさか、そんなの……)
優月は少しばかり葛藤した。しかし、
(でも、誰も見てないんだし……)
とすぐに誘惑に負けて、指をパンツにかけた。しかし、最後にもう一度、優月は周囲をキョロキョロして、家からも、隣家からも、路上からも、誰からも見られていないことを確認した。それでも一応は用心して、家の壁際に寄った。そして、スッと息を吐くと、「えいっ」と気合を入れて、パンツをグイッと膝まで引き下ろした。
(うわぁ、私、外でパンツを脱いでる……。なにしてんだよ……)
優月は我ながら呆れた。しかし、その思いとは裏腹に、いそいそとサンダルを脱いで、パンツを足首から引き抜いた。次の瞬間、優月は、脱いだパンツを右手に持っただけの生まれたままの姿で、たった一人、庭に立っていた。
(私、外で、全裸になってる……)
優月は無意識的に自分の下腹部に手を当てた。滅多に日の目を見ない箇所に日光が直射して、そこら辺に奇妙な熱さを感じた。
(外でスッポンポンになって、お日様の日差しを浴びるのって、こんなに気持ち良かったんだ。知らなかったな。私、まだおねしょするだろうから、今日だけじゃなくて、これからも、こういう機会はあるはず……)
優月は自分の発見したその事実に戸惑いつつ、新鮮な喜びを感じていた。屋外で裸になるという無二の解放感に浸っているうちに、おねしょとかおもらしなんていう悩みがちっぽけな問題に思えてきて、
(そんなの、いくらでもしたらいいじゃん)
という実に大らかな気分になってきた。それと同時に、心の隅で、
(おねしょを隠すのなんて、案外簡単にできるんだな)
とも思った。その時、家の中から、「優月、どこ行ったのー?」というママの声が微かに聞こえてきた。
(あっ、もう、戻らなきゃ)
優月は慌てて、足の裏の土を払い落して、転びそうになりながら、両足をパンツに通して、急いで家の中へ駆け寄った。
35
息を切らせて優月が部屋に戻ると、咲良はとっくに服を着ていた。
「咲良、干してきたよ」
「ありがとう、お姉ちゃん。でも、なんか、ずいぶん時間かかったね」
「まあね」
優月は曖昧に答えて、自分もそそくさと服を身につけ始めた。そうしながら、優月は咲良に自分のたくらみを教えていいものか、ちょっと迷ったが、結局は、それを抑えきれず、口に出してしまった。一応は近くにママがいないことを確かめた上で、
「ねえ、咲良。次おねしょしてもさ、ママを呼んだりせずに、自分たちだけで後始末しようよ」
と咲良の耳にささやくように言った。
「えっ、いいの?そんなことして」
「いいじゃん。きっとバレないよ。咲良だって、その方がいいでしょ」
咲良は最初はおねしょをママから隠すという考え方には乗り気ではなかったが、ついには優月に押し切られるように同意した。
「お姉ちゃんて、割といけない子なんだね」
「うふふ」
優月は、咲良のその指摘には何かと心当たりがあったので、特に否定せず、ただ笑っていた。
その後、ちょっと間をおいて、咲良は思い出したように、
「あ、そうそう」
と言った。
「何?」
「私、ママには、今日お姉ちゃんもおねしょしたって言ってないからね。ママには内緒にしといてあげるから」
咲良はさっきの優月の口真似をして、ニヤリとした。