弓道部のアイドル系美少女と僕と韓国人12
🕑 Added 2021-07-14 10:29:55 +0000 UTC
変化はいつも突然訪れる。
その日、いつものように家で奈緒とCCIの映像を見ていた春人は、奈緒がスマホの画面に見入って微動だにしないのに気づいた。
「奈緒ちゃん、どうしたの?」
「当たったかも」
「え?」
「CCIのファンクラブ限定ミーティング、当たったかもしれないです」
「え?うそでしょ?」
そう言って奈緒のスマホの画面を覗き込むと、そこには、1通のメールが表示されており、無機質なテキストで以下のように書かれていた。
「この度は、『CCI JAPANファンクラブ限定特別ファンミーティング』へのご応募誠にありがとうございます。厳正なる抽選の結果、会員様は当イベントに当選したことをお知らせいたします。プログラムの詳細は……」
そこまで読んで春人は思わず奈緒の肩を抱き寄せた。
「すごいじゃん!奈緒ちゃん、倍率何千倍じゃない?あっ、ごめん」
「すごい。すごいよ。本当かな。絶対外れると思ってたのに」
春人は急いで自分のスマホを確認してみるが、自分のメールボックスには何も届いていなかった。どうやら春人は外れてしまったようだ。
「よかったね、奈緒ちゃん。楽しんできなよ」
「先輩がよかったらなんですけど……私、これ春人先輩と行きたいです」
「え?」
たしかにこのイベントは当選者含む2名が参加できることになっている。だが、春人は、当然奈緒は亜里沙を誘って行くと思っていたのだ。
「本当に俺でいいの?亜里沙じゃなくて?」
「はい、私、春人先輩と行きたいです。こんな風にいつもCCIの話するのも春人先輩だし、先輩はいつも私の話を優しく聞いてくれるし、一緒にいけたら楽しいなって」
「そっか、ありがとう。嬉しいよ」
奈緒が亜里沙ではなく自分を選んでくれた幸福感に身を包まれながら、休日に二人でお出かけすることの幸せな妄想に春人は浸った。これは、もしかすると「初デート」ってやつなんじゃないだろうか。初デートに二人の共通の趣味のCCIを楽しめるなんてそんな良いことはない。
そのとき、春人のスマホの着信音がけたたましくなった。
通話ボタンを押すと、声の主はこちらの返答も待たずに捲し立てた。
「おい、春人か?すごいよ、大変なことが起こったんだよ!CCIのファンミに当選したんだよ!倍率何万倍とかだぜ?すごいだろ?でも今回だけはお前を連れていけないんだ、ごめんな。俺は亜里沙ちゃんと行くからな!土産話聞かせてやるぜ」
佐々木の勢いに押されて何も言えずにいると、「変わって」という小さな声がした後に亜里沙が続けた。
「もしもし、春人?そういうことなの。あの倍率のチケットを佐々木が当てちゃうなんて本当にびっくりしたんだけど、今回はお言葉に甘えて佐々木に連れてってもらおうかなと思って。そこに奈緒ちゃんもいる?奈緒ちゃんにもごめんって伝えておいて」
そこまで言われて春人はようやくこちらの状況を話すことができた。亜里沙も佐々木も、奈緒が当てたことに大いに驚いていたが、それならということで結局4人で一緒に行くことになった。これほどの低倍率のチケットが、この狭い範囲で2枚当たる奇跡。4人はその奇跡に驚きながら、ファンミーティングが行われるその日まで、何度も運営と事務所と、それからCCIのメンバーに感謝したのだった。
4週間後のファンミーティング当日はあいにくの雨だった。4人が住む川崎から会場となる新宿のライブスタジオまでは品川で乗り換えておよそ40分だ。東京方面に向かう電車はいつもながら混んでいて、佐々木ははぐれないように亜里沙の手を握った。すでに付き合っている二人が、「手を繋ぐ」という恋人らしい行為を躊躇なく行えることに春人は幾ばくかの羨ましさを感じたが、その5秒後に奈緒が春人の腕を恥ずかしそうに掴んできた時にその気持ちも吹き飛んでしまった。恋人同士とは言えないものの、気持ちの上では春人と奈緒もほとんど恋人同士だったのである。あとは決定的な瞬間が訪れるのを待つばかりであった。
新宿に着き、ライブハウスに向かう間も、4人はこれから行われる華やかなショーのことに思いを馳せ、その話で盛り上がった。CCIほどのビッググループが、今日のようなクローズドな場で公演を行うのはメジャーデビューしてからは初めてのことだ。デビューからずっと支えてくれている日本のファンのために、今回はメンバーたっての希望で特別に少人数限定のファンミーティングを行うことになったという。
会場の周りにはチケットが外れ中に入れないファンが大勢いたが、4人は若干の優越感を感じながらその群れに割って入った。会場の入り口で韓国人と思しきスタッフにスマホに表示したチケットを見せて入場する。中は、満員でも100人入れるかどうかという小さなライブハウスであった。
春人があたりを見回すと、会場の埋まり具合は8割ほどといったところだった。男女比はおよそ1:9でほとんどが女子だ。春人と佐々木は会場の中でも珍しい男性ファンだったが、女子たちはこれから始まるショーのことで頭がいっぱいなのか、ほとんど2人を気にしなかった。
奈緒もあたりを見回す。会場は女子たちの熱気で湯気が出るのではないかと思われるほどムンムンだ。ふと、会場の前方の壁に寄りかかって様子を伺っている一人の女性と目があった。その女性は、美しい黒髪を後で一つに縛り、クリっとした大きな目を一瞬奈緒の方に向けてにっこり笑った。自然と奈緒も笑顔で返した。女性はそのままバックヤードに引っ込んでしまった。ものすごい美人だが、韓国人という感じではない。日本側のスタッフだろうか、と奈緒は思った。
やがてライブが始まり、その女性の記憶は奈緒の頭から消え去っていった。