婿入り話
🕑 Added 2025-11-20 12:39:19 +0000 UTC
〈神も愛飲!〉
自販機のジュースにはそんな手書きポップが貼られていた。
「いや、おかしいだろ」
ハルトはげんなりしてくる。無理もない。もうすでに山道を1時間は歩いているのだ。
「ちょっと行ってきてよ」と軽い口調で教授から頼まれたものだから、完全に誤解していた。この依頼はちっとも軽いものなんかじゃない。もっとも、大学院で民俗学なんてニッチなものを勉強している自分に寄ってくる依頼なんて、軽いものなどあるわけがないのだ。
そこからさらに15分ほど歩くと、ようやく集落に出た。硫黄の匂いがたちこめている。宿泊予定の宿には温泉があるというのが、唯一の今回の勝利ポイントだろう。
「ようこそいらっしゃいました」
そういってハルトの荷物を受け取る旅館の若主人の指先が、ハルトの指先と触れ合った。
「失礼しました」
流し目をしてくる若主人。ハルトは彼の顔立ちを綺麗だと思う。実際、都会にいれば十中八九モテそうな顔立ちだ。中世の男色が盛んなころなら、引く手数多だっただろうな、などという場違いな感想を思い浮かべるのは学者のたまごの悲しきサガだろうか。
「いらっしゃいませ」
廊下ですれ違った従業員も、顔がいい。そして心なしか、なんか媚びたような目つきでにやりと微笑まれる。
ゲイであることを隠しているハルトは悪い気はしなかった。
「ここは男手しかありませんで」
若主人が部屋の襖を開けながらハルトに微笑みかけた。
「至らない点もあるかと存じますが、どうぞごゆっくりお過ごしください」
いやいや、男好きのおれからすれば天国みたいです。なんてことは言わない。
食事をすませ(山奥の旅館にしては豪華だった。男前の板前が目の前で長芋をすりおろしてくれるサービスにははからずも興奮して「お兄さんのとろろ芋を食わせてくれよ」なんて酒のせいか下卑たことを言いかけた)
露天風呂につかった。温度が少し熱めだが、夜気が冷たいのでそれもちょうどいい。
と、ガラガラと音を立てて誰かが露天風呂に入ってきた。振り向くと裸になった若主人だった。
「えっ、なんで!?」
ハルトがうろたえると、
「今日はお客様一人だけですし、お背中をお流しいたします」
と若主人は手で石鹸を泡だてはじめた。
「どうぞこちらへ」
ハルトはまんざらでもない気持ちで洗い場にあがった。イケメンに体を洗ってもらえるなんて、ソープ◯ンドみたいだと思うと、タオルの下のイチモツがムクムクとすこし起き上がってくる。
若主人は撫でるように背中を流した。
「お加減はいかがですか?」
耳元で囁かれてなんだかドキドキする。
「ああ…いいよ、すごく」
「こちらもお洗いしてもよろしいですか?」
泡まみれの若主人の手が、ハルトの股間へともぐり、玉袋をさわさわと撫でた。
「頼む……」
なんとなくそんな気がしていた。同族を見極める勘というやつだ。
若主人は積極的で、玉袋だけではなく竿までヌルヌルと泡だてて、あっという間に勃起させてしまった。
「お客様の、おっきい……」
若主人はそう言ってハルトのイチモツにまたがった。
「いいのか? こんなことしてて」
ハルトがそうたずねるよりはやく、ズブズブとアナルでイチモツを飲み込んでいく。
「あっ、すごいっ、おっきいだけじゃなくて熱い…」
そして始まるピストン。もうこうなりゃやぶれかぶれだ。ハルトも積極的に腰を動かし、最終的には若主人の尻穴の奥に種付けをした。
「すごくよかったです…」
すべて終わって体を洗い直したあと、若主人は恥じらうようにそう言った。
「神様もお気に召してくださるでしょう」
その言葉がすこし気になったが、風呂場での交尾で酒がまわったハルトには深く考えることもできなかった。
翌日は教授から頼まれていたフィールドワークだった。
若主人は朝食のときからかいがいしくハルトの世話をやいた。これでは新妻のようだなとハルトはなんだか小っ恥ずかしくなったが、悪い気はしなかった。
「今日は祠に行かれるんですよね?」
膳を下げながら若主人がきいた。
「ああ。でもそのことおれ話したっけ…?」
「おっしゃってましたよ。ここにきてすぐに」
ハルトにはその記憶はなかったが、そんなもんだろうと考え直した。
「祠は分かりづらい場所にあります。よろしければご案内しますよ」
寄り添うように若主人がハルトの肩にもたれかかった。
祠は集落を見渡せる山中にあった。
「ずいぶん登ってきたな」
ハルトが景色を見渡していると、
「お迎えが来ています」と若主人が言った。
顔を向けると、神主姿の青年が立っていた。
「お待ちしておりました」
「はっ? なに? 待ってたって、なんで?」
なにかがおかしかった。フィールドワークに来たことも、祠を探しに来たことも、依頼してきた教授以外は知るはずがなかった。
なのに、この集落に入ってから、導かれるようにここまですんなりとたどりついてしまった。
「なあ、なんであんたらおれがここを探してたこと知ってるんだよ」
若主人も神主も答えない。若主人はうすくほほえんでみせる。その顔が淫靡でハルトはドキリとする。
「こちらへどうぞ」
神主の青年が洞窟へと入っていった。
「さあ、あちらへ」
若主人がハルトの肩を押す。
「おかえりをお待ちしております」
そう言いながら。
洞窟のなかはなまぬるい空気に満ちていた。
けれどなぜだか不快ではなかった。むしろなにか高揚させられるような。
ああ、そうか。発展場の空気に似ているんだ。
ハルトはそんなことを思ったが、さすがにそれを口にするのはやめた。
やがてなにかくぐもった声のようなものが聞こえてきた。
青年の案内に従って角を曲がると開けた空間に出た。
ハルトは驚きで息を呑んだ。そこでは裸の男たちが十数人いて、たがいのイチモツをしゃぶったり、乳首に舌を這わせたり、肛門性交をしていた。
「これは…!?」
ハルトが驚きの声をあげるのをよそに、神主の青年は服を脱ぎはじめた。やがて引き締まった体に褌一丁の姿になると、ハルトの手を引いた。
「さあ、あなたも」
ハルトの股間はつよく勃起していた。
そのままなだれこむように、男たちの巣窟へと引きずりこまれた。
見知らぬ男のちんぽをしゃぶっている。
喉奥をふさがれながらも、快楽の嗚咽を漏らし続ける。
神主の青年がハルトの肛門を指で拡げている。
ウケはできないと言ったのに、有無を言わさずほぐされてしまい、いまでは若干の快感の予兆さえ感じている。
乳首を舐めているのは、旅館の従業員の一人だ。
イチモツをしゃぶってくるのは、祠の洞窟の入口で別れたはずの宿の若主人だった。
射精しそうでできないもどかしさがずっと続いていた。
ハルトがいくら抗議の声をあげても、彼らはハルトを絶頂には導いてくれなかった。
まるでなにかを待っているかのようだった。
やがて、神主の青年の指が後孔から引き抜かれた。
ちゅぽんっという卑猥な水音と同時に「んほぉっ」とハルトの口からあられもない声が漏れ出る。
「来る」
神主の青年が言った。
来るってなにがだ? 朦朧とする意識のなかハルトが顔をあげると、ソレは目の前にあった。
「なにこれ…?」
次の瞬間、アナル にソレは潜り込んできた。
「んはぁあああっっっっ!!」
ハルトは身を捩って逃げようとするが、男たちに押さえつけられてかなわない。
ソレはある部分では触手に似ていた。男根に酷似した形をしていて、粘性のある汁をしきりに垂らしていた。
「あなたも種を受け入れるのですよ」
神主の青年がささやいた。それと同時に、ソレが勢いよくピストン運動をはじめた。
「ああっ…、ああっ…」
ハルトは脱力してされるがままになっていた。
元々タチであったが、いまでは男たちに蹂躙された体は開発され尽くされ、乳首や肛門からも快感を覚えさせられているのだった。
「ああっ、ぐはぁっ…」
尻の奥が熱くなった。中に出されたのだとわかった。
「これであなたも婿入りができますよ」
神主の青年の声は、もはやハルトには聞こえていなかった。
目を覚ますと宿の布団で寝ているところだった。
「目が覚めましたか?」
若主人が枕元に座っていた。
「なにがあったんだ…?」
ハルトは起き上がろうとしたが、体がひどくだるいのに気付いた。
「無理しないで」
若主人の言葉に甘え、横たわったまま顛末を聞いた。
それはこの村には男色を好むとされる神が祀られていること、そのために村では男同士の婚姻がひそかに認められていること、ハルトをここに派遣した教授は20年前にフィールドワークでこの村を訪れ、現在の村長とめおとの関係にあること……。
「じゃあはじめからおれが来ることは」
「知っていました」
若主人が顔を赤らめて答える。
「ぼくが嫁入りする相手のお婿さんを、教授さんが選んでくださったとうかがっていました…それが実際に来てみたらこんな素敵な人で…。あの、気を悪くしないでほしいんですが、ぼくとつがいになってくれませんか? 勝手な都合なのはわかってますが、じつは祠で行われたまぐわいの儀式であなたにももうこの村の男の種が植え付けられているんです。嫁を取らずに村を離れたら、体が疼くと思います。過去に逃げ出した男性がいたらしいのですが、その方も結局耐えきれずに戻ってきたのだそうです…」
「小難しいことはわかんないけどさ」
ハルトは若主人の手に手のひらを重ねた。
「ようはおれたち結婚すりゃいいんだろ?」
「…はい!」
ハルトがにかっと笑ってみせると、若主人は顔をほころばせた。
「よろしくたのむよ」
「こちらこそ、です!」
新たに生まれた若いつがいたちは、そのままどちらともなく体を引き寄せ合い、服を脱ぎ捨てた。
「うまくいってよかった」
その物音を宿の1階で聞いている者たちがいる。
そこにはハルトをここに送り出した教授の姿もある。
「これで20年は大丈夫だな」
「まあ悪いようにはするつもりはないが、あのにいちゃんには悪い気もするなあ。おれたちの事情に巻き込んで」
「なにを言うんだ。おれだって20年まえに巻き込まれたんだぞ」
はっはっはと笑い声があがる。場の雰囲気は悪くないようだ。
「皆さん、お疲れさまでした」
神主の青年が玄関をあけて入ってきた。
「彼のおかげで山も川ももうしばらく安泰です」
うえからは新婚初夜の音がギシギシと響いてくる。
みんな顔を見合わせてもう一度笑った。
「せっかく部屋がいくつかあるんですから、皆さんもいかがです?」
神主の青年の提案で、男たちはそれぞれ組になって部屋へと散っていった。
誰もいなくなったロビーで、神主の青年がつぶやく。
「息子たちの婚姻は嬉しいものだな。べつにわたしは生贄など望んだことはないのだが…まあ、今後もこの伝統が続いていくのは悪い気はしない」
そこに鳥が飛んできた。神主の青年は鳥の声に耳をすませると、「そうか、ではもう女人避けの結界はほどいても大丈夫だな。ああ、いや、息子たちがいまここで精力の発散にいそしんでおるでな。今しばらく待ってからにするとしよう」
それからまたしばらく鳥はごにょごにょとつづけた。
「なに? わたしの勧めるじゅーすのぽっぷにケチをつけた男がいただと? ああ…いや、それはおそらくいまきている客人だな。この宿屋の息子とつがいになった。そうか、若者に向けてアピールするつもりで人間の真似をして書いたが、受け入れてはもらえんか…寂しいな」
やがて、宿中から男たちの愛を絡める行為の音や声が漏れ聞こえてきた。青年は自分の神力が高まっていくのを感じる。
「さてしばらく暇になった。暇を持て余している間、おまえが相手してくれるか?」
すると鳥は長い髪の美青年へと姿を変え、神主の青年と舌を絡ませるキスをしはじめた。
この青年の正体を知る者は、この集落にもいない。